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東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)157号 判決

原告

森永乳業株式会社

代理人

竹田達朗

被告

特許庁長官

代理人

中田勝次

外二名

主文

特許庁が、昭和四十二年十月十九日、同庁昭和三九年審判第六、一一〇号事件についてした審決は、取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実《省略》

理由

(争いのない事実)〈略〉

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二本件審決は、グリッパー支持装置に関する本願考案において、必須要件に属しないグリッパーの具体的作動機構が不明であることを根拠に、考案の完成を否定した点において、判断を誤つた違法があるものといわざるをえない。すなわち、当事者間に争いのない前掲本願考案の要旨及び本願の当初明細書及び添付図面によると、本願考案は、被保持物の一部が予定された位置になかつた場合、すなわち一群保持物の一部が予定された位置になかつた場合、すなわち一群のグリッパーと繋合すべき多数個の被保持物中、一ないし数個が繋合しなかつた場合に、そのため一群のグリッパーのすべてが作動しなかつたり、被保持物がグリッパーに完全に保持されなかつたり、あるいはまた、被保持物を転倒破損させたりすることのないようにしたところの、グリッパーをグリッパーヘッドに支持する装置に関するものであり、そのための具体的構成として、各グリッパーが上方にスリーブを有すること、右スリーブを上下に摺動可能に嵌装する貫通孔を有するグリッパーヘッドを備えること、右貫通孔の上端に各グリッパーのスリーブを掛止係合するフランジを設けることを要件とし、かつ、右グリッパーについて、複数のグリッパーのそれぞれが一個の被保持物を把持しうる保持具を有し、また、インライン上にない被保持物に突き当つて降下を制止されても当該被保持物を破損したり転倒させたりしない重さに制限されているものという限定要件を付加しているものであり、このように構成した結果、被保持物の整列が不完全であつても、それに相対するグリッパーを残して、他は被保持物を完全に保持して移動することが可能となり、かつ、列外の被保持物を転倒破損させたり、これに対応するグリッパーを破損させたりすることがないという効果を奏するものであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、本件審決の指摘する(1)どのような技術手段によつてエアーをグリッパー1に圧入することにより保持具1aを開き、(2)グリッパーヘッド3を所望位置に移動したのち各グリッパー1よりエアーを排出することができるかの二点、すなわちグリッパー自体の具体的作動機構は、グリッパーの支持装置の構成と不可分の関連をもつて限定されるべきものでないことは、右認定の本願グリッパー支持装置の構成自体に徴し、明らかなところである。グリッパー支持装置がグリツピング装置中の一部であることは、……明らかなことであるが、そのために、グリッパーの作動機構が開示されなければ、グリッパー支持装置に関する本願考案のものが前記認定にかかる目的効果を達成することができないとすべき理由を見出しうる資料はない。したがつて、グリッパーの作動機構の具体的技術手段の開示がないことを理由に、本願考案をもつて未完成のものとした本件審決は、考案の要旨の解釈を誤り、ひいて判断を誤つた違法あるものといわざるをえない。

(むすび)

三以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。〈以下略〉(三宅正雄 石沢健 奈良次郎)

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